2013年12月02日

「レフ・クレショフ傑作選」ライブ上映会

 ソビエト映画のパイオニアにしてモンタージュ理論の生みの親であるレフ・クレショフの傑作選。初日にはライブ演奏付き上映が実施されるということで行ってました。



 いやー楽しかった。ファンファーレロマンギャルドという関西のカルテットバンドがクラリネット・パーカッション・アコーデオン・大正琴というユニークな取り合わせで楽しませてくれました。この手の演奏会は完全に映画に溶け込んで「どんな演奏だっけ」と思い出せなくなるタイプと、終了後も思わず口ずさみたくなる印象的なフレーズを繰り返し用いるタイプがありますが、今回は後者。個人的にもそういう演奏の方が好きですね。なんちゃってロシア風の演奏が楽しい。

 映画は喜劇「ボリシェヴィキの国におけるウエスト氏の異常な冒険」をまず上映。こちらは、今までクレショフの代表作として比較的上映の機会のあったものですが、私は初見。社会主義と資本主義のカルチャーギャップを笑うものかと思いましたけど違いましたね(^^;革命で落ちぶれた元貴族の悪党たちがウエスト氏を騙して超野蛮な山賊みたいなボリシェヴィキコントを見せるというシュールな展開。もちろん最後は本物のボリシェヴィキに救助されて正しいボリシェヴィキの姿を知るという筋立てなんですが、古典的なドタバタサイレントの形式にのっとりつつすごく変な方向に向かってしまうのが面白い。

 もう一本「二人のブルディ」はシリアスなサスペンスドラマで、白軍と赤軍の対立に翻弄されていたロシア革命前夜が舞台。サーカスで人気のピエロと二代目のその息子が初めて二人舞台を務めることになるはずが、そこに白軍が街にやってきて…という展開。主役を務める父・セルゲイ・コマリョフの重厚な演技がすばらしい。個人的にはこちらが好みだったかな。

 もう一本「掟によって」が残ってるのでぜひこれも見よう。
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2013年07月19日

巨匠・小津安二郎の世界「非常線の女」

 この一ヵ月、シネ・ヌーヴォで開催されてた大回顧上映「巨匠・小津安二郎の世界」をコツコツ見てました。人気があったプログラムは戦後のものだけど、それは華麗にパスして、もっぱら戦前のサイレント作品を見てました。

 戦後の作品はそれなりに見ましたが、なんか冷たすぎて生理的に好きになれない。「東京物語」ってそんなにいいですか。

 ところが戦前、特にサイレント期の作品はぜんぜん違うらしい。ものすごくモダンでコミカル、普通に笑えるらしい。戦後の作品は「笑っていいのかどうか困る」感じですからね。

 で、実際見てみて驚いた。うわすごい。なにこれ(^^;

 銃弾が飛ぶ、学生がこける、人が殴りあう、ギャングがオープンカーで疾走する。でも小津!!

 本当、小津は苦手という人にこそ見てほしい。私もそうだから。いや笑った笑った。日活無国籍アクションかい、おっさん。

 どれもこれも捨て難い面白さでぜひ見てほしいんですが、「和製喧嘩友達」「突貫小僧」あたりは誰が見ても面白いとおもう。「今日は人さらいの出そうな日である」って…O・ヘンリの「赤い酋長の身代金」が原作と言われるとなるほどなと思いますが、突貫小僧の強烈なキャラクターがすばらしい。

 もちろん「生まれてはみたけれど」とかの名作系もよろしいんですが、個人的にはまったくの無国籍アクションな「朗らかに歩め」「その夜の妻」「非常線の女」が大のお気に入り。



 いやあ、中でも「非常線の女」ですがな。奥さん。これからは「小津の最高傑作は?」と聞かれたら「非常線の女」と答えよう。シネフィルにバカにされること請け合いだけど(^^;

 なってったってタイトルがまず強烈。非常線の女、ですよ。小津なのに。主人公はボクサーでギャング。小津だってのに。情婦は田中絹代!!ゴテゴテした格好で「あたいはあばずれさ!」とか言うんだけど顔がお嬢様だから東京バスガールにしか見えん(^^;そこがもっぱら批判されるんですが、アホやなあ、そこがいいんじゃない!

 この二人が心の綺麗な水久保澄子と出会い改心する、ということになってるんだけど、田中絹代なんて「ウフフあんたのこと好きになっちゃった」って初対面でキスしてるし。改心というよりムラムラしてるだろう、姉さん。戦前の百合シーンとはなんとレアな。もちろんキスは直接映りませんが、それを言うなら男女のキス自体がご法度でした。

 とにかく全編を通じやたらエロスとバイオレンスが炸裂し、最後は銃弾まで飛ぶ。こんな小津があり得たということ自体が驚異。まさしく大珍品であります。

 もちろん戦後の作品がそうであるように画面の作りこみは偏執狂的でまさしく芸術作品。30年も前にヌーヴェルバーグを先取りしてた感じですね。ただ、機械人形的な振り付けも棒読みセリフもないので、見ていて辛くなることはなく、娯楽映画としてとことん楽しめる。本当、ぜひ見てほしい。小津の嫌いな人にこそ。
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2013年03月18日

「浪花の映像【キネマ】の物語 朝日は輝く他」

 最近、国立国際美術館がありがたい。というわけで、貴重な作品の上映会、行ってきました。

 今回見たのは戦前の貴重なニュース映画に描かれた大阪の姿。「アサヒコドモグラフ」に紹介された傷病軍人を慰問する園児たちの様子はドン引きするすばらしさでしたが(笑)だって、慰問先でガスマスクを折り紙で作るんだよ。どんなブラックユーモアやねん。

 実は今回見に行った理由は溝口健二の戦前のレアなサイレント作品「朝日は輝く」が上映されるからだったんです。100分ほどの原本のうち残存は4分の1の25分。まさかDVDになってて簡単に見られるとは。会場で知ったんだけど(^^;



 ほんとうは、ドラマ仕立ての作品で、遭難した船から恋人を助けだす正義の新聞記者の物語だったらしいんだけど、それを切り刻んで「新聞のできるまで」のドキュメンタリーに仕立ててしまった珍品。普通のドキュメンタリーですと言われれば「そうですか」と納得してしまいそうな出来栄えで、ここはぜひとも元の原版と差異を見比べたくなる。

 つまりドラマのために作られた作り物の映像だけを使って、新聞制作のドキュメンタリーをつくってしまったわけで、もとの溝口作品がどれほど迫力があったのかと想像に難くないですね。まあどこのどなたかご存知ありませんが、それをもとにドキュメンタリーを作ってしまった強心臓の二次編集者にも賞賛の拍手を送りたい。

 でも切るな勝手に(怒)

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2013年03月07日

「続水戸黄門」「清水次郎長伝」「野狐三次」

 神戸映画資料館「春の時代劇まつり」ということで、レアな作品ばかりずらずらとやってましたので、行ってまいりました。正直な話、決して「傑作」ではない、B級とか小品ばかりですが、まあ戦前時代劇の幅広さを知ることのできる機会という点では誠に貴重。興味深かったです。

 全部で3プロ、各2本立てでも上映時間は各1時間強。どういうことかというと、要するに断片と不完全作品ばかりを集めた、普通なら添え物・端物でしかない作品が一挙に並んだわけです。でもこれが面白い。こういう特集上映はめったにありませんから。

「続水戸黄門」
 山本嘉一主演の代表的な黄門映画。今回のラインナップの中では唯一のキネ旬ベストテン入りしている作品で、オリジナルは3時間を超える大作だったようですが、高松の悪い殿様をこらしめるエピソード(15分)と今回上映された楠木正成の碑を顕彰するエピソード(12分)が残るのみ。高松篇はDVDが出ててそれで見ましたね。まあ正義の味方の黄門が定着してしまった現代から見ると、日本史のフィールドワークという本来の目的のエピソードが見られるのは大変に面白かった。

「さむらひ鴉」
 トーキー作品。でも主演は黒川弥太郎だし、スター映画じゃありません。思い切りマイナー。国定忠治の子分・友五郎が故郷に帰って大暴れ、しかも欠落だらけ。とはいえ結構不思議な面白さがあったかも。添え物の小品の魅力といいますか。あ、でも池田富保なのか。巨匠じゃないですか。ぜんぜんそんな感じしないけど。

「清水次郎長伝」
 沖博文監督、といえば「牢獄の花嫁」ですが、阪妻主演でこんなものも撮ってました。レアもレアなサイレント作品。めったに上映の機会はないそうです。まあ17分だからねえ。でも雰囲気はいい。

「主従無常」
 月形龍之介主演、悪人が一人もいないのに、武士道の意地から親しい主従が仇同士の関係に引き裂かれてしまう。まさに無常。これ、サイレントだといい感じになりそうなんだけどな。監督も聞いたことない人だし、テンポも悪い。ウツラウツラしてしまいましたよ。むろんこれまた不完全で45分しか残ってないんだけど。

「野狐三次」
 今回見た中では一番面白かった。女装のうまい町火消しの三次が変装を生かしてかわいいあの娘のために悪人一味と大立ち周り。結構ポピュラーなヒーローだったらしいけど、忘れられてますね。武士じゃないので、刀を使わないアクション、というのがポイントです。

「大江戸七変化」
 クレージーもので知られる木村恵吾の初期作品。今回唯一の戦後作品(1949)ですが、これまた欠落だらけ。一応、大岡越前ものです。主演は右太衛門なんですが、妙にテンポが悪くて眠かった。
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2012年12月10日

「弥次喜多 善光寺詣り」

 京都文化博物館で日活映画100年記念上映がスタート。フィルムセンターの方は別にどこででも見られるような作品が主体でかなりがっかりしましたが、こちらはなかなかずらりとレアものがそろってます。

http://www.bunpaku.or.jp/exhi_film.html

 新派悲劇の「二人静」がある、大河内傳次郎の「槍供養」がある、内田吐夢の「汗」に「天国の日帰り」田坂具隆の「路傍の石」に稲垣浩版の「闇の影法師」…

 そんな上映の先頭を切るのが目玉の松ちゃんこと尾上松之助主演のこの作品。フィルムセンターの方では、より有名な「豪傑児雷也」をやってるみたいですね。



 こちらほどコテコテではありませんが、あまり残っていない松之助主演作品のバラエティぶりを示すよい例といえるでしょう。DVD版は45分に対し上映は68分。どこがそんなに違うんだろうと思いましたが、フィルムの傷やタイトルカット・字幕まで同じなのでほぼ同一バージョン、DVDは24コマで流しているだけのようです。

弥次喜多善光寺詣り [DVD] / 尾上松之助 (出演); 辻吉郎 (監督)

弥次喜多善光寺詣り [DVD] / 尾上松之助 (出演); 辻吉郎 (監督)

 監督は「槍供養」の辻吉朗ですが、うってかわってなんとも陽気で呑気なコメディ。ご存知「東海道中膝栗毛」のコンビが主役ですが、なぜか善光寺参りに出かけ、途中で出会った姉弟の敵討ちを助太刀すべく敵を追っていざ広島・宮島へ…って、善光寺どこ行った(笑)とにかく全編脱線につぐ脱線。フィルムが切れて残っていないのかそれとも最初から撮っていないのか、投げっぱなしのネタも多数。

 何の脈絡もなく唐突に狐に化かされたり、天狗の団扇を拾って悪戯をして天狗に拉致られたり…と結構特撮もいっぱい。さすが松之助映画です。

 まあ、伊藤大輔らが映画の革新を行う前の作品なので、カメラは据えっぱなし、舞台劇のようにひたすらロングショットで撮っているというありさま。今の目線から見るとかなり退屈するかもしれません。このころの映画はみんなこうでした。インテリは日本映画を馬鹿にして見ず、洋画ばかり見ていたというのも仕方ないかもしれない。まあ、われわれサイレント映画好きにしてみれば、これはこれで独自の味わいがあるんですが。当時の人にしてみれば、芝居を見る楽しみに近いものがあったんでしょう。松之助に対する当時の熱狂は、併映の記録映画「尾上松之助葬儀」から感じ取ることができます。ほとんど天皇の葬儀のごとき蓮台に棺を乗せて壮大な葬列が街を練り歩き、沿道を埋め尽くす人・人・人…
 日本映画が独自の映画話法を辻吉朗がこの映画を撮ったのは1921年。「槍供養」はわずか6年後の1926年。この期間に急激に日本映画が変化したことがわかります。今回は上映ないけど伊藤大輔おそるべし。
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2012年11月20日

「影法師」

 神戸映画資料館でまたまた井上陽一氏の活弁上映会!というわけで行ってきました。今回は阪妻の「影法師」ですよ。二川文太郎の代表作のひとつで、個人的には「雄呂血」よりも好きです。

影法師 [DVD] / 阪東妻三郎, 高木新平, 中根龍太郎, 牧野輝子 (出演); 二川文太...

影法師 [DVD] / 阪東妻三郎, 高木新平, 中根龍太郎, 牧野輝子 (出演); 二川文太郎 (監督)

 そしてこの作品、マツダ版とディスクブランのDVD版の両方でも見てる

江戸怪賊伝 影法師 [VHS] / アポロン

 ストーリーはごく他愛もない義賊の物語ですが、恋に狂って道を見失うところが非常に現代的。でも演出がカラッとしてて気持ちよく見られるので結構娯楽作として気に入ってます。

 実はどちらも少しずつ微妙に欠落してて、両方を見て初めて全体像が分かるという状態。せっかくだから繋ぎ合わせて最長版を作ってくれればいいのに。手持ちのDVDで作ってみようかな。マツダ版は岡っ引きの手入れにあって替え玉で逃げるシーンやお嬢様に説教されるシーンがない。これに対してディスクブラン版では偽影法師のくだりがなく、影法師が恋に悩んで悶々とするところがない。そして何よりラストシーンの逃避行がなく立ち回りの途中でぶった切られている。

 つまりディスクブラン版は恋に狂って切り死にすることが暗示されているし、マツダ版は続編への余韻を残して終わる、というわけでまるで別の作品のよう。ちなみに続編は5分しか残っていないので、ディスクブラン版のような形に後に加工されたとみるのが妥当でしょう。

 ちなみに神戸で見た活弁版はそのどちらでもなく、マツダ版に近いものの、影法師が恋する娘との出会いのくだりがまったくない(笑)ため、「恋」と言われても少々困る(^^;

 まあそれでもそこは井上弁士、いろいろと工夫をこらして楽しく見せてくれました。チャンバラの楽しさという点では十分に合格点。ただ、ストーリー的には少々問題ありでして、申し訳ないと思ったのか、後年のトーキー作品「血煙高田の馬場」を音声を消して活弁で見せるというもう一本サービス上映をしてくれました。なんと太っ腹!トーキー版では見たことがあります。舞踏を殺陣に取り入れて非常に軽快な様式美とともに見せる作品でしたから、確かにサイレント的でノリは上々。これは一見の価値ありました。
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2012年11月06日

「月世界旅行」カラー版

 SF映画の始祖にして、特撮映画のオリジン。わが敬愛するグラン・メリエスの代表作。



 実は手彩色のカラー版があったのです。しかしそのフィルムは経年劣化でボロボロ。はたしてどうするべきか…というわけで、むしろ同時上映のメイキングの方が面白かった。

 パリパリのボロボロなフィルムをひとコマずつスキャナーで取り込んで画像を保存したコレクター、そのデジタル画像を元に丹念にレストア作業をしていった数カ国にまたがる大型修復プロジェクトの様子。と、このあたりの流れはわれらが伊藤大輔監督の「一殺多生剣」を彷彿とさせて大いに興味深いものがありました。

 たぶん、「一殺多生剣」もこういう風にすればここまできれいになる、という点ではいろいろと参考になりました。将来が楽しみです。

 そして最後に流されたカラー版「月世界旅行」、確かにフィルムの美麗さは驚くほどですが…今回新たに付けられたAirのサウンドトラックは自己主張が激しすぎて閉口。シンプルなピアノ伴奏だけでよかったと思う、これは。
posted by てんちょ at 02:24| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | サイレント映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月09日

「一殺多生剣」

伊藤大輔の大ファンです。って、レーサーじゃないですよ。そんな人がいることはネットで知りました。私が言っているのは、主に戦前に活躍した伝説的映画監督。時代劇のあり方を永遠に変えてしまった人。と、日本映画史の教科書には書かれてる。戦後も作品を作り続けているので作品を見ることはできるけれど、これがそれほどおもしろくない。昔の映画は今ほどたいしたことはないんだろう。そう思ってました。無声時代の伊藤大輔作品を見るまでは。

 実は伊藤大輔の絶頂期は1926年11月の「長恨」から34年3月の「丹下左膳剣戟の巻」までのわずか7年4カ月。この間実に35本の映画を撮り、うち24本が映画史に残る第一級の傑作とされています。実にとんでもない打率!!伊藤大輔は1924年から70年までの46年間に95本の映画を撮っていますが、この絶頂期に比肩する作品はないとされています。

 されています、というのは、実際に残されている作品が「御誂治郎吉格子」の1本だけ、という状態が長く続いていたから。それ以外の作品は「すごい傑作だ」という評価と数枚のスチール、何本かの台本が残されているだけでした。なんという惨状。しかし実際に見られないのであれば、どう悔しがればいいのかもわからない。

 ところがその後「忠次旅日記」が発見され、現物を見てその途方もない衝撃的な内容に戦慄するほかありませんでした。今のところ個人的映画日本史上ベストワン。ここから私の無声映画狂いが始まります。

http://tenchyo.seesaa.net/article/104314486.html

 なんというかその、凡人の想像力を超えた衝撃的な映像の連打、しかも芸術として一部インテリだけが楽しめるのではなく、誰が見ても等しく衝撃を受ける、まさしく普遍的活劇の興奮。しかもそこに込められた悲壮美のなんと胸に迫ることか。

 その後相次いで発見された「長恨」(最終巻のみ)「斬人斬馬剣」(25分のダイジェスト版)は不完全な断片でありながら、そのすごさを改めて思い知らせるものでした。

 そこにひょっこりと、「斬人斬馬剣」と対にして語られることの多い大傑作「一殺多生剣」が発見された、とのニュースが飛び込んできました。10月の京都映画祭でプレミア上映されるとのこと。

http://www.kyoto-filmfes.jp/premiere.html

 おそらくは10分程度の活劇シーンの断片だろうと思っていたので、30分の縮刷版、というのはうれしい誤算でした。本当は130分の大作なんだけど。まあ4分の1あれば大まかな筋はつかめるかな。しかも関西弁士の第一人者、井上陽一氏の活弁つきというではありませんか。おまけに「忠次旅日記」の活弁つきとあれば!!これはもう、行くしかない!!
posted by てんちょ at 23:45| 大阪 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | サイレント映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月20日

「嵐の孤児」

 D・W・グリフィスの代表作のひとつですが、通常日本で上映されているのは125分版。私の手元にあるLDのキリアムコレクション版も125分です。ところが先日WHDが発売した版権フリー2000円ディスクのシリーズは150分。「発掘した幻の完全版!」とうたってますが、それが本当かどうかは実のところよくわからない。ただ、大半の流通版より30分近く長いのは確か。とはいえ、わざわざ買うほどのものかどうか判らず…悩んでいたところに十三のシアターセブンで800円上映会があると聞き、行ってみることにしました。

D・W・グリフィスの嵐の孤児 <全長版> [DVD] / リリアン・ギッシュ, ドロシー・ギッ...

D・W・グリフィスの嵐の孤児 <全長版> [DVD] / リリアン・ギッシュ, ドロシー・ギッシュ, ジョセフ・シルドクラウト, フランク・ロシー, モンテ・ブルー (出演); D・W・グリフィス (監督)

 まあ、もともと2000円のDVDですからデジタル上映なら「買った方がいい」と思いますよね、普通。でも上映終了後の茶話会(オマケで付いてた。コーヒーサービス)で聞いた裏話によると、なんとこれ特別に版元に作ってもらったブルーレイ版!!道理で画面がえらくきれいだと思いましたよ。会場はガラガラだけど皆さん損したと思う。「なんでそれをチラシに謳わないの」と支配人さんには言いましたけど。

 ちなみにアマゾン評では「伴奏音楽がいい」と言ってる人もいますけど、そう??どんなにサスペンス盛り上がるシーンでも壮大なスペクタクルのシーンでも、のんびりとしたラジオ体操みたいなピアノ音楽が流れててなんだかいろいろ台無し。

 ただ、画面の素晴らしさはそれを打ち消すほどで、フランス革命の動乱の中で引き裂かれた二人の姉妹の波乱に満ちた運命を壮大なスケールとともに描くグリフィスの描写力はまさしく圧倒的。個人的には「イントレランス」よりも「国民の創生」よりも、こちらの方が「誰が見ても文句なしに楽しめる」という点ではるかにお薦めできます。普通、こういうメロドラマって、むりやり悲劇にしてるっぽくなってしまうし、すれちがいがとてもわざとらしくなってしまう。でも、これは違う。グリフィスの伏線の張り方は非常に巧みで、しかも「後にこの男が姉妹の運命に大きく関わる」とか予告した上で、実に自然にストーリーに絡めてくるんだから恐れ入ります。

 以前池田富保の「尊王攘夷」を評した時に「視点がマクロ的すぎて庶民の視点がどこにもないので冷たい印象を受けてしまう」と言いました。庶民とマクロの歴史を絡めるという点でこれはまさしくお手本。ダントンとロベスピエールの相克が姉妹の運命に重なる構成も本当に見事。ただし、史実にはほとんど沿っていないようだし「ダントン=善玉」「ロベスピエール=悪役」というお定まりの構図を用いているのは若干物足りない。まあ、お約束を使っているからこそきれいに決まるという所はあるのですけどね。そのあたりは実に悩ましい。近年では沖方丁の「シュヴァリエ」などでよりニヒルで複雑なロベスピエールが登場していますが。その点ではアベル・ガンスの「ナポレオン」が一番よくできていたかもしれません。

 
posted by てんちょ at 02:50| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | サイレント映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月14日

「剣聖荒木又右衛門」

 というわけで地元図書館所蔵のマツダ映画活弁トーキービデオを少しずつ見てます。これはDVD化もされていないレアな一品。

【VHSです】アポロン活動大写真 剣聖・荒木又右衛門 活弁トーキー版 [羅門光三郎]◆中古ビデ...

【VHSです】アポロン活動大写真 剣聖・荒木又右衛門 活弁トーキー版 [羅門光三郎]◆中古ビデオ【中古】◆送料無料

 ちなみに羅門光三郎はB級作品に大量に出演しカルトな人気を誇った人だそうで、かの中島らもも、「らも」という名は羅門光三郎のファンだったためPNにしたのだとか。

 とはいえ映画史の表舞台にあまり出てくることのない人で、こうして活弁ビデオがあり松田春翠の声が残されているというのは不思議な気分。

 で見た印象はというと「あーB級だぁー」いい意味でも悪い意味でも。て感じ。とにかくコテコテに濃く濃くしつこくうんとクサく歌舞伎調に演じてみせる人で、子供に人気があったというのは何か判ります。とはいえ「子供向け」「B級」サイレント映画がどういうものだったのか、と知ろうとしても一流作品以上にきれいさっぱり消え去っているので感覚がよくわからない。その点でこの作品は大変に貴重。「子供向け」「B級」だからといって見るに耐えないわけでもつまらないわけでも決してない。

 サイレントでも伊藤大輔以降の「お約束を外す」ことが定石である傑作群に慣れてしまっていると、「お約束を外さない」ことの楽しさに気付きにくくなってしまう。お約束は外さないことでそれはそれで独特の味が出てくるのですよ。映画史には残らないんだろうけど、まあいいじゃないか。楽しいひとときを得られたら、存在意義は十分にあるんですから。

 目をギロッと向いてドタバタと飛び回る羅門光三郎を見ているとなんだか楽しい。ひとときの楽しみをお求めの方はどうぞ。結構楽しいです。

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2012年06月06日

名作映画「サイレント劇場」

 先日発売されたちょっとびっくりするBOXセット。せっかくなので紹介しておきましょう。

【新品DVD】送料無料/名作映画サイレント劇場/BCP-051

【新品DVD】送料無料/名作映画サイレント劇場/BCP-051

 なんと10枚組。以前ここでも紹介した「尊王攘夷」を発売した1000円均一の投売りDVDレーベルディスクブラン発のマスターを10枚まとめたもの。これで2000円でおつりが来ると思えば安い。活弁とかはぜんぜんないけどね(^^;

 収録作品は以下の通り。

右門捕物帖 一番手柄 南蛮幽霊(66分/モノクロ・サイレント 1929年)
決戦荒神山(48分/モノクロ・サイレント 1932年)
尊王攘夷(100分/モノクロ・サイレント 1927年)
水戸黄門漫遊記(16分/モノクロ・サイレント 1928年)
弥次喜多 善光寺詣り(45分/モノクロ・サイレント 1921年)
実録忠臣蔵(16分/モノクロ・サイレント 1928年)
百萬両秘聞 第一編(57分/モノクロ・サイレント 1927年)
百萬両秘聞 第二編(67分/モノクロ・サイレント 1927年)
小雀峠(48分/モノクロ・サイレント 1923年)
影法師(63分/モノクロ・サイレント 1925年)

 まあたった16分でディスク1枚とかふざけとんのかというものも2枚ほどあるんですが、全体としてこのラインナップで2000円なら十分納得できます。全体としてマスターの画質は意外にいいです。マツダ映画社のものよりヘタするといい。

 とはいえまったくの無音で見るのもキツいので、活弁VHSがあるバージョンのものは、マツダ版の活弁を音だけ流しながら見てます。そうすると意外なことが判ったりもしたんですが、それはまた別の機会に改めてご報告ってことで。いま、ボチボチ見てますんで。

 それにしても、ディスクブランから発売されたバージョンのうち何枚かが欠けてます。「十字路」「放浪三昧」「鴛鴦旅日記」がないのは痛恨ですが…別個にまた発売されないものか。好きな人は目ざといと見えて、アマゾンで入手するのは結構大変です。まあ、大手の本屋でも売ってますので、興味がある方はぜひ。
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2012年05月29日

「巨人ゴーレム」

 先日神戸で見たドイツ表現主義期サイレント古典の傑作。サイレント作品を映画館で見るのはやはり独特の感慨があります。



 このバージョンは86分ということで、フィルムセンター所有の修復版と思われます。実際フィルムの状態はかなり良かった。とはいえ、ここに貼り付けた版権フリー版の方が14分も多いのは何でなんだろう(笑)

 それはさておき。

 まあ実際このおかっぱ頭の印象的なデザインのゴーレムのスチールは割とよく知られていると思います。実際に動くところを見てみると、そのメーキャップの優れものぶりに驚かされます。1920年にここまで印象的な造形が可能であったとは。まさしくこの世のものならざる印象。「大魔神」のヒントとなったとの説にはなるほどと思わされます。あの憤怒の形相。確かに。

 全編、舞台はチェコのユダヤ人街。徹頭徹尾ユダヤ的な美術の中で、幻想的な魔術が描かれます。ナチス政権誕生前夜によくここまでユダヤな作品ができたよなあと思ったのですが、実際当時のドイツ社会では「ユダヤ人てこういう悪魔的な魔術を駆使する怪しい連中」という感じの偏見に満ちた形で興味本位に受け止められたようです。なるほど、ちょっと複雑。

 個人的には、ファンタジーというよりはかなりSFチックでとても楽しめたんですが。ゴーレムはいちいち丁寧な指示を与えてやらないとトンチンカンな動きをしてしまう、とかかなりロボット的な存在として扱われているんですよ。そのあたりの融通の利かなさが結構丁寧に描写されているのが面白かった。そして、制作者の意図を外れた悪用によって暴走を初めてしまう、なんてあたりはまさしく50年代SFタッチ。

 ただ、この日はまったくの無音での上映で、なんどか睡魔に襲われたのも確か。うーん。昔は無音でサイレント映画見るの大好きだったんだけどなあ。さすがに年取ると辛くなってくるってことか。次回は何か音源持って行くかな。
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2012年05月21日

内田吐夢「生命の冠」

 実はこの作品、厳密に言うとサイレントではない。しかしサイレント版しか残っていない、ということで、坂本頼光氏が活弁を担当しています。

 なんで今時、というと、昨年「新潮45」でこの作品のDVDがオマケについていたことがある、と今頃知ったから(笑)どうやら発売当時は瞬速で売り切れたらしい。

新潮45 2011年 03月号 [雑誌] [雑誌] / 新潮社 (刊)

新潮45 2011年 03月号 [雑誌] [雑誌] / 新潮社 (刊)

 それもそのはず、この作品は「飢餓海峡」などで知られる名匠内田吐夢の数少ない戦前の現存作品なのにビデオ・DVD化は一度もなく上映の機会もほとんどない。まあ、現存フィルムがトーキーのサイレント版という難ありなものだからなのだろうなあ。アマゾンでは結構とんでもない値段で取引されてます。

 しかしながら「新潮45」というわれわれが生涯読むことのないであろう雑誌でありながらメジャーな雑誌ということもあって、たいていの図書館は定期購読しているはず。わたしの住む市の図書館にも案の定あったので取り寄せてみてみました。こういう時図書館は本当に便利。見終わったら普通に返せばいいですからね。買ってしまったら雑誌が邪魔で困ったと思う。まあ、新聞と一緒に資源ごみに出すしかないよね。

 んで、肝心の内容はどうだったのかというと、はっきり言ってかなりどんよりと暗いです(^^;

 坂本頼光ってブラックなパロアニメ「サザザさん」で知られる人だけど、こんな暗い映画も演るのか。でも普通にうまかったですよ。本来90分ぐらいあったはずの話を52分に詰めているから、若干駆け足になってますが、こういう場合無声は結構便利。それほど気になりません。

 なんと舞台は北方領土・南樺太。カニ缶詰工場を経営する兄弟が難局に襲われ、経営を守るために不正に手を染めるか良心に殉じてすべてを失うか悩むというストーリー。デビュー間もない原節子がいる!という売り文句ですが、本当にただいるだけ。まあ見たかった人は大半が内田吐夢ファンでしょう。私もそうです。そういう意味では「新潮45」さん、ありがとう。

 本来プロレタリア色をもっと打ち出したかったけど検閲で切られ監督としては不完全燃焼に終わった作品のようです。同年制作の「人生劇場」の方が世評は高かったようだし(これも音なし短縮版のみ現存・涙)。しかし当時の北方領土を描いたドキュメンタリータッチはなかなかに見ごたえがありますし、なによりも制作年を考えるといろいろと深読みせざるを得ない。

 制作年代は1936年。つまりあと5年で日米開戦という坂道を転がり落ちていくさ中に作られた作品です。舞台は小さなカニ缶工場ですが、寓意が強く感じられます。理想主義者の兄の「人は良心のみに従って生きるべきだ」という訴えは、現実主義の弟や船員たちの「みんなやってることじゃないか、正直者が馬鹿を見るんじゃ意味がない」という反論と響き合って、当時の日本の姿にぴったりと重なってしまう。実際の日本を席巻したのは弟の方の意見。しかしここに及んでここまではっきりと反植民地主義を掲げた同時代の映画というのはちょっと見たことがない。

 たとえ飢えることになったとしても植民地侵略などという不正に手を染めるなどということは絶対に許せない。暗い物語もそう考えるとまるで違って見えてくるはず。そしてだからこそこの作品が貫いた気骨は一見の価値があるといえます。
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2012年05月19日

「放浪三昧」

 例の1000円DVDシリーズでも販売されています。

放浪三昧 [DVD] / 片岡千恵蔵 (出演); 稲垣浩 (監督)

放浪三昧 [DVD] / 片岡千恵蔵 (出演); 稲垣浩 (監督)

 とはいえこれは音なしの版権フリー版。近所の図書館で松田春翠の活弁版ビデオを発見したので借りてきてみてみました。

放浪三昧 [VHS] / アポロン

 こっちの方ですね。稲垣浩監督、伊丹万作脚本の名コンビで数々の傑作を送り出した千恵プロ時代の第2作目。現存するものの中ではもっとも初期の作品です。それにしても独立プロの第2作なんて初期のものが残っているのはまさしく驚異。それも60分と比較的まとまった形でストーリーが追えるフィルムがあるなんてなんとラッキーなことでありましょうか。

 サイレント全盛期は安く大量に映画が作れるということで、スター俳優たちはこぞって独立し意欲的な作品を発表しました。嵐寛寿郎の寛プロ、市川右太衛門の右太プロ、そしてこの片岡千恵蔵の千恵プロと、それぞれ語り継がれる作品は多いのですが、とにかく現存数が少ない。ひとつには零細プロダクションで一度に焼かれるフィルムが少なかったらしいこと、組織が解散してフィルムがきちんと保存されなかったことも大きいでしょう。

 特にこの千恵プロは「国士無双」をはじめとする伊丹万作の傑作を数々生み出しているのですが、残っているのは本当に少ない。「国士無双」にせよ20分ほどの断片が残るだけです。時代劇なのに「メンタルテスト」なんてけったいな字幕を平気で入れてしまうわけで、伊丹万作は本当に特異なセンスの持ち主だったということでしょう。とにかくチャンバラを「殺人映画」と毛嫌いし、偽者が本物にあっさりと勝ってしまう(国士無双)のようなナンセンスな発想で時代劇を換骨奪胎し続けました。

 そんな伊丹万作の不思議なセンスの萌芽が見られるこの作品。「一人で多数を蹴散らす講談の英雄豪傑のような荒唐無稽なヒーローは存在したのであろうか」と暇な剣術道場の門下生たちが議論し、面白半分に実験してみたところ、たまたま千恵蔵演じる主人公が勝ってしまう。これで千恵蔵は一気に藩の英雄に祭り上げられ、本人もいい気になるものの嫉妬と羨望も集めることになり、妻を失って脱藩する羽目に。英雄扱いに疲れて京都に流れ着いたもののそこでも新撰組と倒幕派の間で腕を見込まれ取り合いとなってしまう…

 とまあ、英雄伝説を揶揄したシニカルなスタイルは、稲垣・伊丹コンビのナンセンス時代劇の第一歩として大いに期待させるものだったといえましょう。現存する作品はまだ何本かあるので、今後チャンスを見つけては見ていくことにしましょう。

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2012年05月14日

「狂へる悪魔」

 本日もサイレント映画を一本ご紹介。これはとにかく安いので、まあ、話の種に買っていただいても損にはならないかな。

狂へる悪魔 [DVD] FRT-154 / ルイス・ウォルハイム/ブランドン・ハースト/ジョン...

狂へる悪魔 [DVD] FRT-154 / ルイス・ウォルハイム/ブランドン・ハースト/ジョン・バリモア/ニタ・ナルディ/マーサ・マンスフィールド (出演); ジョン・S・ロバートソン (監督)

 CD屋なんかだとワゴンで350円で投売りしていることもあります。私が手に入れたのもそういうバージョン。まあ、画質は推して知るべし。パソコンから落としたのかと思うほどギザギザの粗悪な画面にはさすがに凹みましたが…

 とはいえ他に見る方法があるわけでもない。オフシアターでもこの作品がかかっているのは見たことがないですよ。それぐらい珍しい作品。オープンソースと割り切って一応のストーリーを知りたいのならこれでも何もないよりはマシ。

 えらくおどろおどろしいタイトルですが、実は原題は「Dr. Jekyll And Mr. Hyde」つまりスティーヴンソンの「ジキル博士とハイド氏」なんですね。1920年に制作されたごく初期のバージョンですが、ベストの映画版とする評も多いようです。

 実際、これだけ粗悪な画質でもかなりインパクトが感じられる。優れた映画は皆そうなんでしょうが…一度マスター版で見てみたいものです。
 字幕なしでよければオープンソース版がネットで見られます。DVD版もこれを使用しているようですね。



 この映画何がすごいって、変身テーマの作品なのに、特殊メーキャップを一切使ってないんですよ。主演のジョン・バリモアが演技だけでジキル博士とハイド氏を演じ分ける。これは情報量が少ないサイレントの強みを生かした表現といえますね。トーキーではこうはいかない。絶対どこかでボロが出るでしょうから。このサイレント版は本当にすごいですよ。とても同じ人物とは思えない。それだけにハイド氏の邪悪さが大変なリアリティがあるし、ホラーとしてもかなり怖いし迫力がある。まあ、ぜひネット版でもよいので見てください。

 この作品も活弁で見ると面白いんではなかろうか。洋画の活弁バージョンも探し始めてますが、なかなかないですねえ…LDではあんなにあったのに。入手しておけばよかった。
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2012年05月04日

「不思議の国のアリス」

 春のアニメもひと段落したので、ここのところDVDで集めていたサイレント映画についてボチボチ紹介していこうかなと思います。著作権が切れていることもあってかDVDで投売りされているサイレント映画が結構多い。びっくりするような作品がびっくりするような価格で叩き売られてて…

 もちろん画質的にはかなり問題の多いものが大半なんだけど、それでも滅多に見られないもの、となると心が動いてしまうのも確か。美麗な復元版がある作品はなるたけそういうレーベルを購入するようにはしてますが…これなんかはフィルムは世界でこれ一本きりしかないので。

不思議の国のアリス 1903-1915 [DVD] / セシル・ヘプワース, メイ・クラーク,...

不思議の国のアリス 1903-1915 [DVD] / セシル・ヘプワース, メイ・クラーク, ビオラ・サヴォイ (出演); W.W. ヤング, セシル・ヘプワース, パーシー・ストウ (監督)

 なんと世界初の映画版である10分ほどの1903年版と、知る人ぞ知る50分ほどの伝説の1915年版。近年発掘されたものだそうで、特に1903年版など後半は真ん中にデカい穴が空いてて見るに耐えないズタボロの代物。

 しかしサイレント映画好きには必見です。1903年版はほとんどコントか学芸会なみのノリ、アリスはどうみても中年のオバサンと、チープすぎる展開が斬新すぎて逆に刺激的。このころの映画は「動いてりゃいい」寸劇レベルで、怪しげな興行師たちがそのへんの一般人をかき集めて撮っただけ、スターなんてまだ影も形もないころですからね。

 ですが1915年版のクオリティはわずか8年後とは思えない見事なクオリティ。映画の進歩を実感する意味でも貴重な資料といえます。このW・W・ヤング監督版の素晴らしさは、まさしく衝撃的。2500円払う価値は十分にあります。現代のシュワンクマイエル版やバートン版にまったく遜色なく対抗できる完成度といっていいでしょう。

 なにしろアリスの代名詞たるジョン・テニエル挿絵版が信じられないほど克明に再現されているのですから。ここまでの再現度は、その後の作品でも一度もないでしょう。誰でも一度は見たことのあるはず、このバージョン。

愛蔵版 不思議の国のアリス [単行本] / ルイス・キャロル (著); ジョン・テニエル (イ...

愛蔵版 不思議の国のアリス [単行本] / ルイス・キャロル (著); ジョン・テニエル (イラスト); Lewis Carroll, John Tenniel (原著); 脇 明子 (翻訳); 岩波書店 (刊)

 もちろん特撮なんてほとんどない時代。どうやったのかというと、非常に精巧な着ぐるみを作り、全編仮面劇として構成しています。それにしてもここまでテニエルそのままの着ぐるみができるってのがまず驚異。

 そしてアリス役のビオラ・サヴォイは、これまたほとんどテニエルの挿絵から抜け出てきたのかと思うほど見事なはまり役。見事とはこのこと。こんなものが見られるとは投売りセルDVDも捨てたもんじゃない。サイレント映画ファンでなくてもぜひ一度見るべし、です。
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2012年03月26日

中之島映像劇場全体芸術の試み「朝から夜中まで」「御誂治郎吉格子」

 大阪の国立国際美術館で開催された無声映画上映会。こんな近くで見られるのであれば行かないわけにはいかない。澤登翠+柳下美恵のフィルムセンター名コンビ、実は生で体験するのは初めてです。

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 一本目の作品は1921年、ドイツ表現主義の傑作とされる「朝から夜中まで」(カールハインツ・マルティン監督、69分)。なんとこの作品、本国ドイツでは検閲・試写で二度上映されているものの一般公開されたという記録がありません。日本では東京の本郷座で公開され、批評家の絶賛を浴びたそうです。そして時代はめぐり戦後になってこの作品のプリントが日本で発見されます。どんなめぐり合わせか世界でフィルムが発見されたのは日本でのこの一本のみ。ただしなぜか字幕がすべてカットされていたため、近年になってドイツの映画博物館が検閲資料を参考に字幕を復元。劇中に使われているルーン文字のような雰囲気たっぷりの字幕がよみがえりました。つまりことこの映画に限っては、日本で映画が保存されていて、そのマスターから世界じゅうで上映されているわけです。しかもこれ、日本での保管とは信じられないほど状態がいい。本当、どこにあったんだろう。

 さて肝心の内容はといいますと、老いた出納係が凡庸な生活に耐えられなくなり、金を持ち逃げするものの望んでいた快楽はまったく得られず、罪悪感に押しつぶされて自滅する、という単純かつ陰惨な物語。ただし、この世界が非常に書き割りじみたドイツ表現主義の舞台装置の中で演じられているのがミソです。大傑作「カリガリ博士」で知られる歪んで作り物めいた舞台装置がここではさらに誇張・簡略化され、悪夢的な感触を強調します。

 さすがに「カリガリ博士」ほどの怪奇・幻想美はありませんが、ワイマール共和国の混乱と鬱積がこれほど手に取るように感じられた作品はなかったと思いました。ああ、これがそうなのか、という感じ。ドイツに関心を持つ人間には必見の傑作といえます。貧しいとはいえ明日の食に困るほどではない、しかし希望はまったくなく未来は真っ黒に塗りつぶされている。この鬱積から逃れるためには、その場限りの享楽に身をゆだねるか、あるいは自暴自棄から暴力に走り周囲をひっくり返してウサを晴らすか、ぐらいしかない。

 ジークフリート・クラカウアーによる映画論「カリガリからヒットラーまで」(せりか書房)では、ヒトラー登場の先触れとなった作品として「カリガリ博士」を挙げていますが、私にはずっとそれが納得できなかったのです。本来はカリガリ博士が捕縛されて終わるはずが強引に結末が変えられてしまった。それはヒトラー的なものを待望した当時のドイツ世相に則ったものであり、それがなければはるかに傑作になったはずだというのだけど…いや、カリガリ博士は現行版がベストでしょう。あの悪夢的ラストは本当に衝撃的だった。むしろヒトラー登場を予見したのはこの作品。ただしヒトラー的犯罪と暴力に身を委ねた結果の破滅まで描いたことがこの作品のすごすぎた点。当時のドイツで上映できなかったのだとしたら、それは無理もなかったことだろうなあ…

 さて、こちらは柳下さんのピアノ伴奏のみ。前日には澤登さんの活弁つきバージョンもあったそうで…ううん、見たかった。実際、両日の演奏はまったく異なるものだったそうです。今回柳下さんはピアノだけでなくシンセサイザーも駆使し一人で効果音なども入れながら独自の世界を見せてくれました。

 そしてもう一本、おなじみの「御誂治郎吉格子」。なんかもう無限に何度も見ちゃってますよ(^^;無声といえば毎度これなのはさすがにどうなのか…先日は浜村純活弁公演なんてのもあって大盛況だったらしい。そんなに借りやすいのか?これ。どうせなら今後は「忠次旅日記」をもっと積極的に上映してほしいですけどねえ。

Talking Silents 7「御誂治郎吉格子」「弥次喜多 尊王の巻・鳥羽伏見の巻」 [D...

Talking Silents 7「御誂治郎吉格子」「弥次喜多 尊王の巻・鳥羽伏見の巻」 [DVD] / 大河内傳次郎 (出演)

 とはいえ今回は澤登翠版としては初見。柳下さんの演奏もこちらはうってかわって時代劇に寄り添うように和調のリズム。前回の井上陽一版と比較してみると大変興味深かった。

井上版 http://tenchyo.seesaa.net/article/112156523.html

 前回も書きましたけど、井上氏は関西弁士の流派なので、非常に女性の描き方が色っぽい。治郎吉にもて遊ばれ翻弄される二人の少女の哀しみとひとかけらの意地がくっきりと浮かび上がります。井上版で見ると治郎吉は結構いい加減でいやな男なんですね。だからこそ最後の伏見直江の一撃がフェミニズム的な逆襲としてクローズアップされる。

 これに対して澤登さんの口演は実に男声が雄雄しい。女性なのにチャンバラものの第一人者を誇っているのはすごいこと。ポールさんがいつぞや書いておられましたが、みゆきちも顔負けの声優ばりな男女自在の声色は、生で聞いてこそ迫力を実感できますね。しかし分けても男前な声には惚れる。そして結果として浮かび上がってくるのは、無辜の女性たちを不幸に突き落とす罪悪感にさいなまれながらも無力な小市民としての治郎吉の姿なのでした。つまり澤登さんは完全に治郎吉視点、井上さんはヒロイン視点。弁士の性差とまったく逆になっているのが大変に面白い。

 思えばこれが活弁の面白さなんだろうなあ。今後は他の弁士さんの語りももっと積極的に追いかけていこう。

 ところで終わった後のトークショーを聞いていて思ったんですが、二人とも第一人者とは思えないぐらい謙虚で驚いた。この謙虚さこそが映画を輝かせる力なんだろうな。次回もきっと行こう。
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2012年02月26日

「ロスト・ワールド」

 買ったまま置いていたDVDを見てみました。とにかくサイレントづいている今のうちに見てしまおうってわけで。

ロスト・ワールド 2in1 [DVD] / ウォーレス・ビアリー, ベッシー・ラヴ, ルイス・...ロスト・ワールド 2in1 [DVD] / ウォーレス・ビアリー, ベッシー・ラヴ, ルイス・...

ロスト・ワールド 2in1 [DVD] / ウォーレス・ビアリー, ベッシー・ラヴ, ルイス・ストーン, アーサー・ホイト, ローラ・エリオット (出演); ハリー・O・ホイト, ノーマン・ドーン (監督)

 「2in1」というタイトルで判るとおり、実はお得な二本立て。ただしもう一方は50年代に量産された怪しげなC級映画で、トカゲを接写して恐竜だと言い張っている困った作品(^^;

 しかし「ロスト・ワールド」の方は、「キングコング」を手がけたウィリス・オブライエンの代表作で、どうしてこんな水と油の二作品を抱き合わせ販売にするのか理解に苦しむところ。まあ、めちゃくちゃ安いので、片方だけでも十分買う価値はありますけどね。とかいいつつ別の意味でもトカゲ映画は気になるけど(笑)

 しかしオブライエンはさすがハリーハウゼンの師匠だけあって、技術的にかなり制約のあったはずの1925年にこれだけのものをつくりあげてしまったのは驚異に値します。

 それに無声映画の独特のテンポで特撮映画が展開されると、コナン・ドイル本来のビクトリアンSFのテイストはこんな感じなんじゃないかという19世紀色たっぷりの展開が楽しめます。実際メリエスなど少数を例外にして全編特撮映画でサイレントという作品はほとんどないので、この不思議なテイストはもっと見たくなってしまう。

 「メトロポリス」があるじゃないかという向きもあるでしょうが、あの作品意外にも特撮シーンはほとんどないのですよ。壮麗な巨大セットがウリでロボットマリアも登場シーンはごくわずかだし。

 これに対しこの作品はわずか70分足らずの尺の中に火山に追われた無数の恐竜が逃げ惑うシーンやロンドンにつれてこられた恐竜が暴れるシーンなど「こんなに入れて大丈夫か」と心配になるほどに特撮満載。本当、特にあの恐竜の群れのシーンは動かすだけでも発狂しそうになっただろうに、お見事というほかない。

 まあ、実際詰め込みすぎて中盤の洞窟シーンなどストーリーは少々わかりにくくなっていますが、それほど複雑ではないので、こちらで適当に考えて楽しめばいい。いかつくひげもじゃのチャレンジャー教授のキャラクターは、誰もが思い浮かべるとおりで「そうそう」となんかうれしくなってしまう。

 安いサイレントDVDの一連の中でも埋没している一枚かと思いますがこれは結構お薦め。いつかちゃんと劇場で見たいもんです。海外DVDだからきちんと修復したバージョンもあるはずなので…
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2012年02月21日

池田富保監督「尊王攘夷」

 今回から新カテゴリとして「サイレント映画」を作ってみました。「映画」は別にあるんだけど、サイレントを区別して考えていきたいと思っているので。まあ実際見る機会も少ないし…今後はサイレント映画を見たら必ずここでアップしていこうと思います。

尊王攘夷 [DVD] / 山本嘉一 (出演); 池田富保 (監督)

尊王攘夷 [DVD] / 山本嘉一 (出演); 池田富保 (監督)

 こちら、アマゾンならいま1000円で買えます。おそろしく怪しげな会社から出てる怪しげなディスクですが、まあ再生はできるしそもそもこれ以上に状態のいいフィルムがあるはずもない。以前「キネマ倶楽部」のVHS版で出ていたときは活弁や演奏もあったはずですが、なんと無音。お好みのCDでもかけながら再生することをお薦めします。

 本来は15巻ということだから150分はあったはず。しかし残されているフィルムはわずか100分。それでもまあまとまって筋を追えるだけの巻数が残されていることを感謝すべきなのでしょうね。実際問題として、フィルムセンターにもマツダ映画社にもこのフィルムはないので、上映される機会は本当にめったにありません。私も記憶にない。

 しかしながらこの作品、いい加減なB級作品などではなく、堂々たる超大作。そして当時(1927年)のキネ旬日本映画3位でした。この年がどんなにとんでもない年であったか、ベストテンを挙げてみましょう。

第1位 忠次旅日記(信州血笑篇) 監督:伊藤大輔
第2位 彼をめぐる五人の女 監督:阿部豊
第3位 尊皇攘夷 監督:池田富保
第4位 忠次旅日記(御用篇) 監督:伊藤大輔
第5位 海の勇者 監督:島津保次郎
第6位 からくり娘 監督:五所平之助
第7位 慈悲心鳥 監督:溝口健二
第8位 悪魔の星の下に 監督:二川丈太郎
第9位 下郎 監督:伊藤大輔
第10位 道中悲記 監督:井上金太郎

 あの「忠次旅日記」が公開された年!!しかも今はない「下郎」もこの年。他のメンバーは阿部豊がいる、島津保次郎がいる、五所平之助がいる、溝口健二がいる…まったくもってとんでもない年でした。そして嘆かわしいことに、この作品以外で現在も見ることができるのは、不完全な「忠次旅日記」のみ。

 こうなると期待しないわけにはいかない。あの「忠次旅日記」と上位を争った作品とあらば。それを確認するだけでも1000円は安い。

 んで、まあ結論から先に言いますと。「忠次旅日記」と同等の衝撃を期待するのはさすがに無理。あれは別格です。でも、もっと上映する機会はあってもいい作品。まさしく大河ドラマ的な堂々たるスケール大河内傳次郎の井伊直弼がすばらしい。近年の大河ドラマでは悪役として描かれることの多い井伊ですが、先見の明を持った人格者として描かれている。それに説得力を持たせるのはさすが大河内というところでしょうか。

 とはいえ、戸惑うほどに熱さに欠ける作品ではあります。攘夷派にも開国派にも肩入れせず、まるで歴史論文のように客観的視座から明治維新の意義を分析しようとする。おそらくは、それが当時「画期的」と評価されたところなのだろうし、今となっては「いまさら」感ありありに感じてしまうところなのでしょうね。あまりに中立的に描かれたがために、観客は誰にも感情移入できない。ただ、戦前に置いても忠君愛国的な史観だけがはびこっていたわけではなく、特に傾向映画が全盛だったこの時代には、より客観的な史観が模索されたこともあったということを示しています。

 そうした巨視的な歴史観には大いに賛同するところですが、やはり市井のミクロ的視点と組み合わせることで初めて観客を突き動かす情動が生まれてくるのでしょう。このあたりのエモーショナルな演出は伊藤大輔が素晴らしかった。

 あと、剣戟シーンはのっぺりしてかなりおざなり。遠景でバーンと据えっぱなしでチョコマカ斬り合うところを撮ってます。遠近を自在に切り替える伊藤大輔の神業的カット割りがいかにすごかったかということなんでしょうねえ…

 あ、でもとても珍しい作品ですし、なにしろ1000円。一見の価値はあります。
posted by てんちょ at 03:46| 大阪 | Comment(0) | TrackBack(0) | サイレント映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする