この一ヵ月、シネ・ヌーヴォで開催されてた大回顧上映「巨匠・小津安二郎の世界」をコツコツ見てました。人気があったプログラムは戦後のものだけど、それは華麗にパスして、もっぱら戦前のサイレント作品を見てました。
戦後の作品はそれなりに見ましたが、なんか冷たすぎて生理的に好きになれない。「東京物語」ってそんなにいいですか。
ところが戦前、特にサイレント期の作品はぜんぜん違うらしい。ものすごくモダンでコミカル、普通に笑えるらしい。戦後の作品は「笑っていいのかどうか困る」感じですからね。
で、実際見てみて驚いた。うわすごい。なにこれ(^^;
銃弾が飛ぶ、学生がこける、人が殴りあう、ギャングがオープンカーで疾走する。でも小津!!
本当、小津は苦手という人にこそ見てほしい。私もそうだから。いや笑った笑った。日活無国籍アクションかい、おっさん。
どれもこれも捨て難い面白さでぜひ見てほしいんですが、「和製喧嘩友達」「突貫小僧」あたりは誰が見ても面白いとおもう。「今日は人さらいの出そうな日である」って…O・ヘンリの「赤い酋長の身代金」が原作と言われるとなるほどなと思いますが、突貫小僧の強烈なキャラクターがすばらしい。
もちろん「生まれてはみたけれど」とかの名作系もよろしいんですが、個人的にはまったくの無国籍アクションな「朗らかに歩め」「その夜の妻」「非常線の女」が大のお気に入り。
いやあ、中でも「非常線の女」ですがな。奥さん。これからは「小津の最高傑作は?」と聞かれたら「非常線の女」と答えよう。シネフィルにバカにされること請け合いだけど(^^;
なってったってタイトルがまず強烈。非常線の女、ですよ。小津なのに。主人公はボクサーでギャング。小津だってのに。情婦は田中絹代!!ゴテゴテした格好で「あたいはあばずれさ!」とか言うんだけど顔がお嬢様だから東京バスガールにしか見えん(^^;そこがもっぱら批判されるんですが、アホやなあ、そこがいいんじゃない!
この二人が心の綺麗な水久保澄子と出会い改心する、ということになってるんだけど、田中絹代なんて「ウフフあんたのこと好きになっちゃった」って初対面でキスしてるし。改心というよりムラムラしてるだろう、姉さん。戦前の百合シーンとはなんとレアな。もちろんキスは直接映りませんが、それを言うなら男女のキス自体がご法度でした。
とにかく全編を通じやたらエロスとバイオレンスが炸裂し、最後は銃弾まで飛ぶ。こんな小津があり得たということ自体が驚異。まさしく大珍品であります。
もちろん戦後の作品がそうであるように画面の作りこみは偏執狂的でまさしく芸術作品。30年も前にヌーヴェルバーグを先取りしてた感じですね。ただ、機械人形的な振り付けも棒読みセリフもないので、見ていて辛くなることはなく、娯楽映画としてとことん楽しめる。本当、ぜひ見てほしい。小津の嫌いな人にこそ。
2013年07月19日
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