2012年05月19日

「放浪三昧」

 例の1000円DVDシリーズでも販売されています。

放浪三昧 [DVD] / 片岡千恵蔵 (出演); 稲垣浩 (監督)

放浪三昧 [DVD] / 片岡千恵蔵 (出演); 稲垣浩 (監督)

 とはいえこれは音なしの版権フリー版。近所の図書館で松田春翠の活弁版ビデオを発見したので借りてきてみてみました。

放浪三昧 [VHS] / アポロン

 こっちの方ですね。稲垣浩監督、伊丹万作脚本の名コンビで数々の傑作を送り出した千恵プロ時代の第2作目。現存するものの中ではもっとも初期の作品です。それにしても独立プロの第2作なんて初期のものが残っているのはまさしく驚異。それも60分と比較的まとまった形でストーリーが追えるフィルムがあるなんてなんとラッキーなことでありましょうか。

 サイレント全盛期は安く大量に映画が作れるということで、スター俳優たちはこぞって独立し意欲的な作品を発表しました。嵐寛寿郎の寛プロ、市川右太衛門の右太プロ、そしてこの片岡千恵蔵の千恵プロと、それぞれ語り継がれる作品は多いのですが、とにかく現存数が少ない。ひとつには零細プロダクションで一度に焼かれるフィルムが少なかったらしいこと、組織が解散してフィルムがきちんと保存されなかったことも大きいでしょう。

 特にこの千恵プロは「国士無双」をはじめとする伊丹万作の傑作を数々生み出しているのですが、残っているのは本当に少ない。「国士無双」にせよ20分ほどの断片が残るだけです。時代劇なのに「メンタルテスト」なんてけったいな字幕を平気で入れてしまうわけで、伊丹万作は本当に特異なセンスの持ち主だったということでしょう。とにかくチャンバラを「殺人映画」と毛嫌いし、偽者が本物にあっさりと勝ってしまう(国士無双)のようなナンセンスな発想で時代劇を換骨奪胎し続けました。

 そんな伊丹万作の不思議なセンスの萌芽が見られるこの作品。「一人で多数を蹴散らす講談の英雄豪傑のような荒唐無稽なヒーローは存在したのであろうか」と暇な剣術道場の門下生たちが議論し、面白半分に実験してみたところ、たまたま千恵蔵演じる主人公が勝ってしまう。これで千恵蔵は一気に藩の英雄に祭り上げられ、本人もいい気になるものの嫉妬と羨望も集めることになり、妻を失って脱藩する羽目に。英雄扱いに疲れて京都に流れ着いたもののそこでも新撰組と倒幕派の間で腕を見込まれ取り合いとなってしまう…

 とまあ、英雄伝説を揶揄したシニカルなスタイルは、稲垣・伊丹コンビのナンセンス時代劇の第一歩として大いに期待させるものだったといえましょう。現存する作品はまだ何本かあるので、今後チャンスを見つけては見ていくことにしましょう。

posted by てんちょ at 04:12| 大阪 | Comment(0) | TrackBack(0) | サイレント映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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