2012年02月21日

池田富保監督「尊王攘夷」

 今回から新カテゴリとして「サイレント映画」を作ってみました。「映画」は別にあるんだけど、サイレントを区別して考えていきたいと思っているので。まあ実際見る機会も少ないし…今後はサイレント映画を見たら必ずここでアップしていこうと思います。

尊王攘夷 [DVD] / 山本嘉一 (出演); 池田富保 (監督)

尊王攘夷 [DVD] / 山本嘉一 (出演); 池田富保 (監督)

 こちら、アマゾンならいま1000円で買えます。おそろしく怪しげな会社から出てる怪しげなディスクですが、まあ再生はできるしそもそもこれ以上に状態のいいフィルムがあるはずもない。以前「キネマ倶楽部」のVHS版で出ていたときは活弁や演奏もあったはずですが、なんと無音。お好みのCDでもかけながら再生することをお薦めします。

 本来は15巻ということだから150分はあったはず。しかし残されているフィルムはわずか100分。それでもまあまとまって筋を追えるだけの巻数が残されていることを感謝すべきなのでしょうね。実際問題として、フィルムセンターにもマツダ映画社にもこのフィルムはないので、上映される機会は本当にめったにありません。私も記憶にない。

 しかしながらこの作品、いい加減なB級作品などではなく、堂々たる超大作。そして当時(1927年)のキネ旬日本映画3位でした。この年がどんなにとんでもない年であったか、ベストテンを挙げてみましょう。

第1位 忠次旅日記(信州血笑篇) 監督:伊藤大輔
第2位 彼をめぐる五人の女 監督:阿部豊
第3位 尊皇攘夷 監督:池田富保
第4位 忠次旅日記(御用篇) 監督:伊藤大輔
第5位 海の勇者 監督:島津保次郎
第6位 からくり娘 監督:五所平之助
第7位 慈悲心鳥 監督:溝口健二
第8位 悪魔の星の下に 監督:二川丈太郎
第9位 下郎 監督:伊藤大輔
第10位 道中悲記 監督:井上金太郎

 あの「忠次旅日記」が公開された年!!しかも今はない「下郎」もこの年。他のメンバーは阿部豊がいる、島津保次郎がいる、五所平之助がいる、溝口健二がいる…まったくもってとんでもない年でした。そして嘆かわしいことに、この作品以外で現在も見ることができるのは、不完全な「忠次旅日記」のみ。

 こうなると期待しないわけにはいかない。あの「忠次旅日記」と上位を争った作品とあらば。それを確認するだけでも1000円は安い。

 んで、まあ結論から先に言いますと。「忠次旅日記」と同等の衝撃を期待するのはさすがに無理。あれは別格です。でも、もっと上映する機会はあってもいい作品。まさしく大河ドラマ的な堂々たるスケール大河内傳次郎の井伊直弼がすばらしい。近年の大河ドラマでは悪役として描かれることの多い井伊ですが、先見の明を持った人格者として描かれている。それに説得力を持たせるのはさすが大河内というところでしょうか。

 とはいえ、戸惑うほどに熱さに欠ける作品ではあります。攘夷派にも開国派にも肩入れせず、まるで歴史論文のように客観的視座から明治維新の意義を分析しようとする。おそらくは、それが当時「画期的」と評価されたところなのだろうし、今となっては「いまさら」感ありありに感じてしまうところなのでしょうね。あまりに中立的に描かれたがために、観客は誰にも感情移入できない。ただ、戦前に置いても忠君愛国的な史観だけがはびこっていたわけではなく、特に傾向映画が全盛だったこの時代には、より客観的な史観が模索されたこともあったということを示しています。

 そうした巨視的な歴史観には大いに賛同するところですが、やはり市井のミクロ的視点と組み合わせることで初めて観客を突き動かす情動が生まれてくるのでしょう。このあたりのエモーショナルな演出は伊藤大輔が素晴らしかった。

 あと、剣戟シーンはのっぺりしてかなりおざなり。遠景でバーンと据えっぱなしでチョコマカ斬り合うところを撮ってます。遠近を自在に切り替える伊藤大輔の神業的カット割りがいかにすごかったかということなんでしょうねえ…

 あ、でもとても珍しい作品ですし、なにしろ1000円。一見の価値はあります。
posted by てんちょ at 03:46| 大阪 | Comment(0) | TrackBack(0) | サイレント映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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