2011年07月05日

「アトムの足音が聞こえる」

 キュッキュッという不思議なアトムの足音。この世ならざる音をありものではなく、人工的なノイズを加工することでゼロからつくりあげていった男、大野松雄。作品にクレジットが残るのは「旧アトム」と「旧ルパン三世」のみですが、アニメ史に遺した足跡はとてつもなく大きい。これは、そんな彼の世界を振り返るドキュメンタリー。



 現在大阪で上映中なので見て来ました。なんだかすごくワクワクする。そう、映画の中に出てくるあの音もこの音も聞いたことがある。ロボットや宇宙船が飛ぶ時の音。ミサイルが発射される時の音。そんなものは誰も聞いたことはない。だからみんな彼がゼロから作り出した。彼は「ルパン」でアニメ界を去ってしまうけど、現在もガンダムからサザエさんまで、弟子たちが彼の蓄積の上に膨大な世界を積み上げていった。それが「音響効果」という、新しい時代の職人たちなのでした。

 当然、それは「音響の演出家」である真下耕一にも大きな影響を与えています。音を投げっぱなしにせず、自分の演出する世界に回収していったのが真下の新しさでした。まあそれはさておき。ここで語られるのはパイオニアである大野松雄。

鉄腕アトム・音の世界 / 効果・特殊音 (CD - 2009)

鉄腕アトム・音の世界 / 効果・特殊音 (CD - 2009)

 当然それらの音はシンセサイザーで作られているんだろうと思いこんでいたのですが、実はなんと発信機とテープレコーダーを組み合わせ、ハウスのDJのごとくに様々な自然音を録音したテープをスクラッチ状に手回しで回転させながら人工的な音声に加工していく。キュッキュキュキュッキュッという感じの音、いかにも人工的だけどどこか温かい。そんな音は、途方もないアナログでフリージャズのような演奏方法によって作り出されていたのでした。当時の武満・富田などのシンセサイザー作曲の数学的な厳密さとは似て非なるフリーなスタイル。30年以上が過ぎ去っても、まったく古くなっていないことに驚かされます。

 アニメ界を飛び出した彼が手がけているのは、精神障害者の演劇と、ステージ上でのサウンド演奏。まったく違うことのようでいて、どこか自由につながっていくところがなんともおおらかですばらしい。八十歳を超えても実にダンディなクリエイターぶりは今なお健在。あまりのかっこよさにしびれました。30年を経てもスタイルはまったく変わらずオープンリール+発信機。でも、まったく古びていないし、いまだに斬新に聞こえるというのは本当にとんでもない。当時のアナログシンセ音楽が時代の産物として資料としてしか聞けないのとは好対照です。

YURAGI #10 / 大野松雄 (CD - 2011)

YURAGI #10 / 大野松雄 (CD - 2011)

 そう。彼は今なお京都に居を構え、新作アルバムを発表し続けている。なんというモダン。なんというダンディ。パイオニアでありなおかつ最先端。こんな人がすぐ近くにいるということに幸福を感じます。次は絶対、コンサート行こう。
posted by てんちょ at 03:39| 大阪 ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
だったらこっちも未だにコンビニコピーと切り貼りという前世紀の技術でコピー誌作ってるぞ。(←こら(笑))
Posted by ポール・ブリッツ at 2011年07月05日 15:29
いやまあ、手作りはいいぞ、ってことで。あ、編集にパソコン使ってるか(^−^;
Posted by てんちょ at 2011年07月09日 15:45
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