2008年08月06日

伊藤大輔特集「忠治旅日記」「斬人斬馬剣」

 明日からヒロシマです。ああもう今回はコミケ前というのが致命的に痛い。パソコン持ち込んで必死で書かないと。…って私は何をしに行くのだろう(笑)

 んで、「ひだまりスケッチ×365」も第2話はほとんど画面外ネタがなかったし、どうしようかと思ったのですが、どうせなら趣味に走って先日、梅田のプラネットでみた戦前無声時代劇特集から。何の関係が、と言われそうですが、実は「無限の住人」のタイアップ。こういうチャンバラ映画が、実は真下版「無限の住人」のベースなんじゃないかと思う昨今。

 戦前チャンバラ無声映画というのは今ではほとんど見る機会もないしあまりレンタルショップにもないし、荒唐無稽なだけで古臭い映画だと思われがちなんですが。実は戦後のタルい時代劇は及びもつかないぐらい強烈に面白い。これは、実際に見ていただかないとわからないので説明が難しいのですが…

 表現の自由が厳しく規制されていた戦前にあって、当時流行していた左翼思想を代弁する手段として用いられたのが時代劇の舞台設定なのでした。その屈折した表現の行間からにじみ出てくるすさまじい虚無的な世界観は、ある意味旧ソ連の映画の魅力と似通ったものがあるかもしれない。ただ、あくまで「芸術」であった旧ソ連映画と違い、日本のチャンバラは大衆娯楽の活力を存分に発揮しており、今見ると「こんなすごい表現がされていたのか」と驚くばかり。そのほとんどは傑作とされるものも含めてフィルムが消え去っており、キネ旬などの資料から往時をしのぶしかないのが悔しいところなのですが。

 しかし近年、個人コレクションや海外の拠点などに残されていた作品の発掘が進み、戦前時代劇の頂点といわれた伊藤大輔作品の何点かが見られるようになりました。今回上映されたのはそのうち3本。

 「長恨」(1926)は、当時無名だった大河内伝次郎を主演に撮ったアクション時代劇。残念ながら8巻仕立ての最後の1巻しか見つかっていないのですが、そのフィルムの美しいこと。ほとんど原型をとどめない形でしか残っていない伊藤作品ですが、この1巻についてはほぼ原型のままと思われ、逃げる弟、新撰組に包囲され壮絶に斬り死にする兄の場面が短いカットアップで交互につながれていくさまはまさしく真下を思わせる映像シャッフル。剣戟はもちろんですが、その映像が繰り出す運動性がすばらしい。戦後の時代劇はスター俳優をアップで撮ろうとするあまり、モブシーンがおろそかになりがちなのですが、思い切ってロングで撮影することにより、斬っても斬っても雨あられと押し寄せる寄せ手、その中でさすがの剣の名手も力尽き、倒れていく…そういう孤立無援の絶望感というのは、戦前の時代劇特有のものですね。戦後は主人公はヒーローになってしまった。

 「忠治旅日記」(1927)は、日本映画史に燦然と輝く伊藤の最高傑作。古株の評論家がそのすばらしさをほめそやすほどに悔しい思いをしていたわけですが…91年に三部作の完結編「御用篇」が発見されるにおよび、初めて目にすることができた次第。その衝撃力は忘れがたく、日本映画ベストテンをたずねられたら必ず入れるようにしているほど。いわゆる「国定忠治」ものですが、戦前も戦後もこのような解釈の作品はなく、まさしく孤高の傑作。農民の味方として祭り上げられた忠治が次第に子分の裏切りに次ぐ裏切りで散り散りになっていき、最後は病に犯され、数えるほどの手下とともに絶望的な闘いに挑むこととなってしまう、という内容。時代劇というよりはむしろギリシア悲劇のような重厚なタッチで描かれた一大叙事詩。本来の完全版三部作として見たかったという思いはつのるものの、これだけでも衝撃力は十分。DVDが出るという噂もありましたけど、いまだに出ないなあ。紀伊国屋書店版で出たら絶対買うのに。

 「斬人斬馬剣」(1929)はより本格的な左翼志向の作品とされていますが、農民たちを助けて悪城主をこらしめる、というストーリーはむしろ戦後のヒーロー時代劇を思わせてあんまり好みじゃありませんでした。「七人の侍」の原型とされる説があるのももっともな話。まあ、残っているのは全体の20パーセントほどで、ストーリーを追うのも難しいんですけどね。もうちょっと字幕で補ってほしい。とはいえ大胆なカット割りはさすが伊藤大輔という感じですね。キネ旬の資料を読むともう少し複雑な話だったようで、これは残っているフィルムから全体の魅力をくみとるのはやや辛いかも。

 秋にはフィルムセンターで伊藤大輔と大河内伝次郎特集があるそうで、何か新発見フィルムが出ないか今から楽しみ。
posted by てんちょ at 23:42| 大阪 ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この映画マニア!

うらやましいであります(笑)。わたしも見たいぞ、「忠治旅日記」。
Posted by ポール・ブリッツ at 2008年08月07日 16:45
たぶん、今年10月からのフィルムセンターで確実にやると思うので、のぞいてみてください。本当、すごいから。

http://www.momat.go.jp/H20/H20FC.html
Posted by てんちょ at 2008年08月09日 00:11
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